殺し屋たちの個性を、もう一つの漫画で楽しむ

伊坂幸太郎の小説『グラスホッパー』を、井田ヒロトがマンガ化した全3巻のクライム・サスペンス。マンガ「魔王 JUVENILE REMIX」と共通する殺し屋たちの、別の描かれ方を楽しめる作品でもある。

同じ名前のキャラクターが登場しても、その役回りや雰囲気は完全に同じではない。それぞれの作品にオリジナリティがあるのが、二作品を行き来する楽しみだ。

鈴木・鯨・蝉の視点が交差する全3巻

物語は3人の視点で進む。

一人目は鈴木。妻を殺された普通の男で、復讐のため違法組織「令嬢」に潜入している。一人目の視点として、読者を裏社会に引き込む案内役を務める。

二人目は鯨くじら。「自殺屋」と呼ばれる殺し屋。陰のある重厚なキャラクターで、人間の罪悪感や記憶の話をする時に物語の温度を一段下げてくる。

三人目は蝉せみ。ナイフ一本でこなすスピード重視の殺し屋。雇い主の岩西との掛け合いがコメディの温度を入れてくれて、3視点の中で一番テンポが軽い。

この3人の視点が交差しながら、「令嬢」を中心とした裏社会の構造が少しずつ浮かび上がる。3巻という短い尺で群像劇を成立させているのは、井田ヒロトの作画力と原作の緻密な構成のおかげだと思う。

同一人物だけど、完全に同じではない

そして自分が一番面白いと感じているのは、「魔王に出てきた殺し屋」と「グラスホッパーの殺し屋」が、同一人物ではあっても、完全に同じ描かれ方ではないということだ。

共通するキャラクターでも、視点や役回りが変わると受け取る印象が変わる。別の作品では別の魅力が引き出されているところが好きだ。

これは作画担当が違うことも大きい。魔王の大須賀めぐみ、グラスホッパーの井田ヒロト——同じ伊坂キャラを、別の絵柄で別の重さで描くので、視覚的な手触りもまったく違う。マンガ作品としての別物感がきっちりある。

共通する殺し屋たちを、それぞれの漫画ならではの描き方で楽しめる。片方を気に入った人には、もう片方も読んでみてほしい。

井田ヒロトの絵が描く、殺し屋たちの重さ

井田ヒロトの絵は、青年マンガらしい重厚なタッチ。殺し屋たちの陰の部分を、線の太さと影の付け方で表現するのが上手い。少年マンガ路線の魔王とは対照的で、こちらはダークで大人びた絵作りになっている。

特に鯨の描き方が良い。人物の重さや不穏さが、絵柄からじっくり伝わってくる。コマの空気で「こいつヤバい」と感じさせる絵作りができている。3巻という短い尺で、各殺し屋のキャラクターを成立させているのは、絵の力が大きい。

短い全3巻に、複数の視点が詰まっている

3巻という短い尺なので、原作小説の情報量を全部は乗せ切れていない部分がある。原作既読者は「もっとここ膨らませてほしかった」と感じる箇所もあるはず。逆に未読者は、サクッと群像劇の輪郭を掴むのに向いている。

また、3視点が交互に進むので、誰の視点を読んでいるのかが最初は混乱しやすい。3〜4話分も読めば慣れるが、1話だけ読んで「分かりにくいな」と離脱しないでほしい作品だ。

Verdict
総評 — グラスホッパーを読むべきか
◆
こんな人におすすめ
  • 「魔王 JUVENILE REMIX」が好きだった人
  • クライムノワール・殺し屋ものが好きな人
  • 群像劇の構成を楽しみたい人
  • 3巻でサクッと読み切れる完結作を探している人
  • 伊坂幸太郎の世界観に浸かりたい人
◇
こんな人には向かないかも
  • 視点切り替えの群像劇が苦手な人
  • 原作小説のボリューム感を期待する人
  • 明るい話を求める人(基本トーンはダーク)
同じ人物、別の物語。「魔王」と並べて読みたい一作

鈴木・鯨・蝉の視点が交差する、全3巻のクライム・サスペンス。「魔王 JUVENILE REMIX」にも登場する殺し屋たちを、それぞれの漫画のオリジナリティとともに楽しめる。3巻でまとまっているので、魔王を読んだ人の次の作品としてもおすすめ。

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